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zoom RSS 『ダック・コール』

<<   作成日時 : 2009/10/24 15:10   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 3

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小説家、稲見一良(いつら)氏の代表作のひとつと
言っていいだろう短編集を、少し前に読んだ。
私の小説集を読んでくださったある方が、文体に似ているところがある、
というようなことをおっしゃっていたので
気になってすぐに書店に足を運んだのだ。

それぞれに少しずつテイストが違う六篇の短編を、
プロローグ、モノローグ、エピローグからなる、
トリプティック(三枚つづりの絵)的な一篇でまとめているような物語形式で、
私がこれまでに読んできた日本語のフィクションでは、
目にしたことのない構成だ。

それよりもともかく、読み出すとやめられない。
360p以上ある文庫本だが、
ほとんどその日のうちに全編読みきってしまった。

仕事に倦んだデザイナーが出会った奇妙な石拾いの男。

映像プロダクションに勤める若者がレンズの先に見たもの。

北米のカントリーサイドに舞う不思議な鳥の群れ。

少年と初老の男のトム・ソーヤ的冒険と、ふたつの魂の交流。

主人公の過去が交錯する、マンハンティングのドラマ。

ある漁師の青年期と老年期の断片。

物言わぬデコイを拾った少年の話。

タイトルの『ダック・コール』からも類推されるように、
これらの七つのエピソードは、いずれも、鳥を縦糸としている。
その糸と平行するように、一種、マニアックな情報の線も含まれる。
猟や銃やシネカメラ、ラフト、キャンピングカー、等々。
私の志向範囲と一部重なる部分もあって、
正直なところ、なんだか冷や汗をかくような気分にもなった。
『ダック・コール』をもっと前に読んでいたら、
「クレーン」は書けなかったかもしれない。

もちろん稲見一良氏の『ダック・コール』が、
小説として非常に面白く読めるのは、そうした縦糸に対して、
より普遍的なテーマが、横糸として独特の存在感で
しっかりと織り込まれているからである。
少年と老年、生と死、騒音と静寂、世俗という暴力と精神の気高さ。

そして、氏がかつて映像関係の仕事をされていたことに通じるのだろうが、
非常に絵画的、あるいは映画的なビジョンが全編を通じて浸透しており、
男性的な嗜好対象としての縦糸、
死生観に関わる普遍的テーマとしての横糸の上に、
あざやかな映像的色彩が加わって、
日本の小説には稀な立体感を生み出していると思う。

氏が職業作家として小説を書き始めた経緯は、
ウィキペディアにも記されているのでそちらをご参照されたいが、
そのこともこの本の成り立ちとは、決して無関係ではない。

本書は、第四回山本周五郎賞を受賞している。

私にとっても日本語で書かれた素晴らしい小説集のひとつだ。
こういう方向で小説が書けないかと、私も長い間考えてきたような気がする。
だから今日の記事は、稲見一良氏へのファンレターでもあるのだ。




ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)
早川書房
稲見 一良

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
それまでは縁もゆかりもなかったのに、ひょんなことから同じ方向性を持ったひとに出会える。素晴しきかな人生。
それはそうと最近ネットとの接続状況がかんばしくありません。すぐエラーが出て切断されてしまいます(泣)
たぬきさん
2009/10/25 17:28
たぬきさん、コメントありがとうございます。
稲見一良氏の著作は単に評価が高いというより、
人から愛される作品が多いようです。
そのことについて、私がどうこう言うのも
おこがましいですけど、
氏の作品の存在を教えてくれた方には
たいへん感謝しております。

接続はやっぱりPCでしょうかね。
ブラウザなども変化していくみたいですから、
便利な機器もなかなか維持が大変ですわい。
白鳥和也
2009/10/26 08:53
調子悪いからといって、どついても機嫌直してくれないし。下手をすれば止めを刺してしまったりして。
たぬきさん
2009/11/04 18:25
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